【岩井温泉の伝説】岩井温泉の由来(岩美郡)
むかしむかし、藤原冬久という身分の高い方が、
ひどい皮膚病にかかりました。
いくら手を尽くしても、
病気はいっこうに良くなりません。
冬久は、とうとう人目をさけて、
生まれ故郷の宇治の里に、
かくれ住むようになりました。
けれども、病気はひどくなる一方。
肌はぐちゃぐちゃにただれ、
髪は抜け落ち、
とてもまともに見ることのできない姿になってしまったのです。
ある夜、冬久は一人こっそり宇治の里を出ると、
こじきのようにさまよいながら、
あちらの国、こちらの国と、旅をして歩くようになりました。
ところがあるとき、山陰道をさすらって、
岩美郡岩美町の岩井というところを
通りがかったときのことです。
向こうからやってくる女の人に、冬久が宿をたずねると、
どうしたことか、いきなりその女の人の口から、
冬久の顔めがけて、つばがとんでくるではありませんか。
あまりの侮辱に、冬久が口もきけずつったっていると、
女は、冬久の手をとって近くの木かげにつれていきました。
そして、木の枝で、かたわらの岩をつつくと、
不思議なことに、そこからは湯気をたてた熱い湯が
こんこんと湧き出てきたのです。
女は、ゆっくり口を開くと、
「あなたにつばをかけたのは、悪意からではありません。
それは、この湯と同じもの。
さあ、これであなたの全身を洗ってごらんなさい。
もとの美しい肌にもどるはずです。」と言って、
すっと消えてしまいました。
そして、冬久がさっそくその通りにすると、
ただれた肌は、たちまちもとの美しい肌に戻ったのです。
これが、岩井温泉の始まりといわれていますが、
冬久は、その後岩井の里に住みつき、
あちこちに温泉を掘って、
皮膚病に悩む人々を助けてやりました。
また、冬久みずからの手で、
あの女の人の姿を木に刻むと、
でき上がったその姿は薬師如来に
そっくりだったといわれます。
そしてこの像は、今では、
岩美町岩井にある、
東源寺の本尊としてまつられているのです。